繁盛していた会社も価格競争に直面し…
今から40年前の1980年頃。私の父親の会計事務所の顧問先に、ある印刷会社がありました。従業員は50人ほどで大口の顧問先でした。社長のお人柄も良く“羽振り”もよかった記憶があります。なんと、事務所の従業員がその印刷会社に転職したこともあったほどです。
ところが、その15年後の1995年、その印刷会社は倒産してしまいます。バブル崩壊も原因になったようですが、それまでの印刷工程に変わって、パソコン上で印刷物を編集できるDTPという方法が大勢となり、大掛かりな設備を持たなくても印刷が可能に。そして前出のような古い印刷会社は価格競争で負けてしまったのです。
“気鋭の花形職業”も栄枯盛衰
そんな時期、DTPデザイナーという職種が出現しました。私の事務所もDTPデザイナーの顧問を務めていましたが、当時20代の女性がマッキントッシュ1台で2500万円の売上を稼ぎ出し、年収は2000万円!!お若いのにスゴイなぁ、と関心しました。その後も紹介いただくなどのご縁があり、最大4件のDTPデザイナーが顧問先になりました。
ここでまた“ところが”です。出版社から毎年のように単価が下げられ、10年ほどするとそんなデザイナーの売上もジリジリ落ちはじめて…いつしか、同じ仕事量をこなしているにも関わらず売上は1/3、最盛期2000万円だった年収が500万円に。デザイナーの顧問先は、現在1件を残すのみです。
印刷会社のエピソードと同じく、パソコンや編集ソフトが普及して、誰でも安く購入できるようになったことに加え、出版業全体も紙媒体が売れなくなったこと。そして何より、ネットやスマホで簡単に、しかも無料で情報を得る時代になり、わざわざお金を払って印刷媒体を手にしてもらえなくなったことが原因だと言えます。
時代変化に左右されない職業の強み
このコラムを寄せていますモリタさんは創業から110年以上の社歴がある企業ですが、歯科専門医はさらに古く1909年(明治8年)から続く職業です。
歯科医師になるには資格が必要。歯学部から合わせると長い時間とたくさんのお金がかかります。歯科医師になるのは決して簡単ではありませんが、この「資格」が参入障壁になり、業務の独占が可能!もちろん、急に診療報酬が半分になることがあったり大変なこともありますが、突然、無くなってしまう職種では決してありません。
一方、40年で様変わりする印刷業界などの浮き沈みの激しさを考えると、技術の進歩が必ずしも個々の幸せに直結する訳ではないようです。新しい分野(職種)は時代の先端を担う仕事ですが、前述のように浮き沈みも激しいもの。
資格を取得し、歯科医師になるのは大変ですが、保険診療制度という強い裏づけのもと、時流に関係なく一生続けられる職業だと言えます。時間とお金はかかるものの、歴史があり長く続けられる職業のありがたみを改めて感じます。