開院前の[いしだ歯科医院]。
診療室で朝礼をしている石田と桑原、早野、安川の各スタッフ。
やや離れたところで工藤が見ている。
「みんなのおかげで今日からいよいよ開業です。今日一日、そしてこれからもずっとよろしくお願いします。」
石田が3人を見ながら軽く頭を下げる。
「よろしくお願いします。」
声を揃えて元気よく声を出す3人のスタッフ。
何も分からないところからスタートした歯科開業への道。
M社の営業担当者工藤や税理士の森川先生をはじめ、多くの人に支えられてついに[いしだ歯科医院]が開院する。
ドアが開いて待合室に入ってくる患者さん。幼稚園ぐらいの子供を連れた母親らしき女性である。彼女らが記念すべき患者第1号となる。
「わぁ~、きれいな歯医者さん!」
子供が声をあげる。
「本当ね、歯医者さんじゃないみたい。」
あたりを見回して驚く母親。
「お早うございます!」
受付で安川が少し微笑みながら、2人に声をかける。
「今日はどうされましたか?」
受付に近付きながら母親が
「ええ、実は昨日から急に歯が痛み出して・・・」
自分の右頬に手を当てる。
「そうですか。それは大変でしたね。」
相手の気持ちになって、声をかける安川。
問診表や保険証の確認なども手際よくこなし、患者さんを診療室に誘導する安川。
診療室で、治療にとりかかる石田。
衛生士である桑原や早野もテキパキと石田のアシストを行う。
お互いの息もピッタリだ。
トレーニングの成果は確実に出ている。
患者さんは途切れることなく来院し、石田と3人のスタッフは忙しくしながらも丁寧に対応していく。どの患者さんも満足そうに帰っていくように思え、石田は自分の考えが間違っていなかったことを実感していた。
ふと気がつけば、午後の診療時間も終了し、石田は最後の患者さんを治療していた。
その患者さんを見送り、大きなため息を1つつく石田。
「石田先生、お疲れ様でした。」
後ろから笑顔で声をかける桑原、早野、安川の3人。
石田振り向きながら
「みんなもお疲れ様。何かあっという間の1日だったね。」
「本当に早かったです。」
3人からも安堵の声が聞かれる。
最後まで立ち会った工藤も笑顔で石田に近寄る。
「石田先生、改めておめでとうございます。」
「ありがとうございます。工藤さんには本当にお世話になりました。」
深々と一礼をする石田。
「今日、無事に開業できたのは工藤さんのおかげです。心から感謝しています。」
「いえいえ、私は何も・・・。いろいろな方が石田先生を応援して下さったから、うまく行ったんです。」
「本当にいろいろな方々にお世話になりました。感謝の気持ちは言葉では言い尽くせません。人との出会いって不思議なものですね。」
感慨深げに何度も頷く石田。
「でも石田先生、開業はこれで終わりではありません。今日がスタートです。今日この日を忘れないで下さい。」
「本当にそうですね。これからも変わらず頑張ります!」
石田、少し照れながら工藤に右手を差し出す。
「工藤さんは、私の掛け替えのない仲間。戦友と言ってもいいかも知れません。だから・・・これからもずっとよろしくお願いします。」
工藤、両手で石田の右手を握り返す。。
「ありがとうございます。こちらこそこれからもよろしくお願いします。」
2人、お互いに微笑みあう。
その時、入口のドアが開いて女性が中へ入ってくる。
「あ、すみません、今日の診療はもう・・・」
と言いかけて、あっと驚く石田。
入ってきた女性は新開聖子であった。
手には花束を持っている。
「石田先生、本日はおめでとうございます!」
石田に花束を差し出す新開。
その新開の後ろから、もう1人女性が顔をのぞかせる。
「成泰、お疲れ様!」
恋人の叶さなえである。
「さなえ・・・」
再び驚く石田。
「聖子さんと連絡をとって・・・きちゃった!」
笑顔で答えるさなえ。
それを見ながら新開も微笑む。
「はい、石田先生、受け取って。今日は所用でこられなかったけど、森川先生もくれぐれもよろしくって。」
「ああ、森川先生からは鉢植えが届きました。気を使っていただいて申し訳ありません。」
石田、花束を受け取る。
「私もお金出したんだからね。」
いたずらっぽく笑うさなえ。
その時、またドアが開いて今度は1人の男性が入ってくる。
手には紙袋を持っている。
「あ、古里。」
入ってきたのは、「帝塚山歯科」での後輩・古里であった。
人の多さに一瞬怯むが
「い、石田先生、本日はおめでとうございます。これ差し入れです。」
手に持った紙袋をおずおずと石田に差し出す。
「ああ、ありがとう。わざわざきてくれたのか。今日は千客万来だな。」
笑顔で紙袋を受け取る石田。
「院長先生もよろしくとのことでした。」
「そうか、院長先生も元気?また、近々ご挨拶に伺うから。」
古里、あたりを見回しながら
「それにしても綺麗な歯科医院ですね。羨ましいです。」
「あれ、古里は開業には興味がなかったんじゃないの?」
石田、意外な表情で古里を見る。
「いやぁ、以前は全然興味がなかったんですが、石田先生の話を聞いているうちにちょっと興味が出てきました。」
頭を掻きながら恥ずかしそうに白状する古里。
「お、ライバル出現か?。でも、少なくともこの近くで開業するのは勘弁してくれよな。」
石田、肘で古里を軽く小突く。
「そ、そんなこと、絶対にしませんよ~。」
悲鳴をあげる古里。
そんな古里を見て、大爆笑する一同。
なごやかな雰囲気の中で時が流れていく。