[いしだ歯科クリニック]のスタッフの求人には多くの応募がありました。石田は、工藤にも採用面接に立ち会ってもらい、頼りになるオープニングスタッフを確保できたようです。
テナントビルの1階。オープン前の[いしだ歯科クリニック]。
石田と工藤、そしてオープニングスタッフである女性3名(桑原、早野、安川)が揃っている。
その目前には、ショールームに行った際、インパクトのあったフラットなベッドタイプの「フィール21」が3台並んでいる。
「ではバキュームの取り扱いの練習です。」
石田、チェアの椅子に座る。
手に練習用のテキストを持ったスタッフ3人が、その周りを取り囲む。
「では、早野さん。」
「はい。」
呼ばれた早野がアシスタント用の椅子に座り、手にバキュームを持つ。
マネキン人形を使ったバキュームの練習が始まる。
「では、お願いします。」
「はい、お願いします。」
マネキンの口腔内にバキュームを差し込む早野。
石田の動きに合わせようとする。
「あ、もう少し右からでお願いします。」
「あ、はい」
少し戸惑いながら、再度バキュームを差し入れる早野。
「あ、行き過ぎました。その少し上・・・はい。そうです。」
丁寧にバキュームを動かす早野。
「では、次に桑原さんお願いします。」
「はい。」
呼ばれて返事をする桑原。早野と交代で椅子に座る。
休憩室で椅子に座っている石田と工藤。
疲れ果てた様子で、大きくため息をつく石田。
そこに私服に着替えた桑原、早野、安川が顔を出す。
「では先生、失礼します。」
「お疲れ様です。」
口々に挨拶をして、立ち去る3人。
「お疲れ様でした。」
笑顔で答える石田。
工藤も同様に挨拶を返す。
3人を見送った石田、再び大きなため息をつく。
「ふう。」
疲れきった表情の石田。
そんな石田を見て、工藤が口を開く。
「先生、皆さんしっかりしていて頼りになるのではないですか?」
工藤の顔を見ながら、少し考え込む石田。
「うーん、そうだけど・・・中々うまくコミュニケーションがとれないんですよ。会話するのも一苦労で。正直、バキュームの位置もなかなか息が合わないですし・・・。」
心配そうな石田。
意外な石田の言葉に、工藤の表情も曇る。
「スタッフ同士もどこか、よそよそしく感じます。来週は患者さんが来た時のシミュレーションですよね。このままで大丈夫かなぁ・・・?」
そんな石田の顔を見ながら、考え込む工藤。
何かを思いついたように顔を上げ、小さく頷く。
翌週のスタッフトレーニング開始前、診療室で用意をしている石田。
そこへ工藤がやってくる。手には紙袋を持っている。
「石田先生、こんにちは。」
「あ、工藤さん、こんにちは。」
工藤、石田に近付きながら
「先生、今日のミーティングはコレを食べながらしましょう。有名パティシエが作ったケーキです。」
「え?」
「これ、女性にすごい人気なのですが、何時間も並ばないと買えないんです。スタッフのみんなもきっと喜びますよ。」
あっけにとられた表情の石田。暫くして
「なるほど!」
大きく頷く。
ミーティングルームで、石田が紙袋からいくつものケーキを取り出して並べる。
それを見て嬌声をあげる桑原、早野、安川の3人。
嬉しそうに手を叩いて喜びを表している。
「さぁ、好きなケーキをどうぞ。」
石田が笑顔で促す。
それぞれ好きなケーキを取って
「石田先生、いただきます!」
口に運ぶ。
「あー、おいしい!先生ありがとうございます。」
「こんなおいしいケーキ、初めてです。」
「嬉しいです。1時間くらい並ばないと買えないのに・・。」
それぞれ感想を口にし、お互いに笑顔で歓談する3人。
そんな3人を見ながら満足そうに頷く石田。
工藤と目が合うと、感謝の気持ちを込めて頭を少し下げる石田。
「先生、また、買ってきて下さいね」
桑原、早野、安川の3人が口を揃えて言う。
「え?、あ、ああ、もちろん!」
「やったー!」
手をあげて喜ぶ3人。妙に息が合っている。
椅子に座って話をしている石田と工藤。
そこに私服に着替えた桑原、早野、安川の3人が顔を出す。
「先生、本当にご馳走様でした。」
「いえいえ、これからもよろしくお願いしますね。」
「(3人声を揃えて)はい、頑張ります!」
3人仲良く去っていく。
石田、そんな3人を見送り、工藤へ目を移す。
「工藤さんやりますね。」
にやりと笑い、工藤を肘で小突く石田。
「いえいえ。」
照れたように笑う工藤。
「初対面だと緊張しますが、きっかけさえあれば交流を深めて、すぐに仲良くなりますから。」
「そうですね。ケーキだけであんなに仲良くなるなんて。」
感心しきりの石田。
そんな石田を見ながら工藤が口を開く。
「石田先生、この調子で開業までがんばりましょう。」
「はい。」
石田、大きく頷く。
[いしだ歯科クリニック]のスタッフトレーニングも順調のようです。そして、ついに開業の日が迫ってきました。開業への道は最終段階にたどりついたのです。