無事、銀行から融資の受託をもらえた石田は、工藤と一緒にM社のショールームにやってきました。石田の診療方針にそった医療機器を探すためです。
オフィス街の一角。ビジネスビルが立ち並ぶ。
「M社」のロゴマークが書かれている看板の建物が見える。
その1階がショールームとなっていて、工藤の先導で石田が中に入る。
「いらっしゃいませ!」
広々としたショールームに受付女性の声が響く。
「石田先生、こちらへどうぞ。」
窓側の席に案内する工藤。
「はい。」
言われるがまま椅子に座り、改めてショールーム内を見回す。
右側にはチェアーが何台も展示され、左側にはデジタル機器やレーザー、そしてレントゲン器機などがずらりと並んでいる。
その種類の多さに圧倒される石田。
「いらっしゃいませ。」
受付の女性が、笑顔でコーヒーを運んでくる。
工藤、石田の向かい側の椅子に座り、
「石田先生、本日は弊社のショールームにご来場いただき、誠にありがとうございます。改めて御礼申し上げます。」
ゆっくりと一礼する。
「いえいえ、こちらこそ無理を言ってすみません。」
工藤の仰々しい態度に苦笑する石田。
「先生、とりあえず一息入れていただいて・・・その後に弊社の製品をご説明させていただきたいと思います。」
「よろしくお願いします。」
お互いに軽く礼をして、微笑む。
「石田先生、こちらです。」
工藤が、ショールームの展示スペースへ石田を案内する。
ズラリと並んでいるチェアーを順番に説明していく工藤。
「こちらがスペースラインで一番人気の[イムシア]です。」
[イムシア]を覗き込む石田。興味津々である。
「ちょっと倒してみますね。」
スイッチを操作する工藤、チェアーがゆっくりと動き出す。
「石田先生、おかけ下さい。」
「あ、はい。」
石田、術者側の椅子に座る。
「人間工学と最先端の技術による診療環境を提供します。優しいユーザーインターフェイスと自然な動きでピックアップできるインスツルメント。」
インスツルメントが石田の手元にくる。
「なるほど、確かにこれなら取り出しやすいですね。」
何度かピックアップしてみる。
「治療によるストレスを軽減し、より診療に集中できる『人』を中心とした効率的な診療環境を目指します。」
工藤の流れるような説明は続き、その都度、大きく頷く石田。
ショールームに展示しているチェアーの種類は豊富で、[イムシア]の他にも[トレファート][セプタス][G40]などが、工藤によって次々と説明される。
石田、ふと一番奥に展示されているチェアーに目をとめる。
「このチェアーは変わっていますね。ベッドタイプですか。」
チェアーに近づく石田。
「はい、これは[フィール21]と言いまして、『pd』を実践するのに最適なチェアーです。」
「え?、『pd』・・・ですか?」
怪訝な顔の石田。
「はい、『pd』は『Proprioceptive Derivation』の略で、日本語に訳すと『固有感覚に基づく演繹(決定・選択)』という意味です。」
「うーん、何か難しそうですね。」
腕組みをして考え込む石田。
「でも石田先生、『pd』を実践すれば、術者やアシスタント、そして患者さんの身体に優しく、しかも正確な治療が可能となります。」
笑顔で説明する工藤。
石田、腕組みをしたまま
「難しそうだけど、ちょっと興味はありますね。フラットなチェアーというのもインパクトあるし・・・。」
「石田先生、もしご興味がおありなら弊社のセミナーに参加されてはいかがですか?。丁度、来週の土曜日にセミナーが開催される予定です。」
「そうですか・・・わかりました。一度検討してみます。」
一通りチェアーの説明が終わった後も、レーザー、レントゲンと説明は続き、最後にパソコンが複数台設置されているコーナーに石田と工藤はやってきた。
「弊社の院内ネットワークシステム[DOOR]は、診療の流れに沿ってトータルにサポートしています。その核となるのが・・・」
工藤、パソコンの画面を次々と変えながら説明していく。
「レセプトカルテコンピューター[DOC-5]、総合画像処理ソフト[i-VIEW]、患者プレゼンテーションソフト[トリニティコア]です。」
「シームレスな接続環境なので、忙しい診療の中でもストレスなく活用いただけます。」
大きく頷きながら、画面を食い入るように見つめる石田。
「どれも素晴らしいですね。うちの院長にも見せたいくらいだ・・・。」
感心しきりの石田であった。
ショールームの中を1人で歩き回る石田。
「こうして見ていると、どれも素敵に見えてきて欲しいものがいっぱいできてきた。チェアーにCTにレーザー、そしてデジタル機器・・・」
指を折って数えていく石田。
それを遠くから見ている工藤が、小声で呟く。
「石田先生、どれもこれも欲しいのはよくわかりますが・・・予算を忘れては困ります。」