東京北銀行から出てくる石田と工藤、その足取りは重い。
銀行の担当者に、満額融資を断られてしまった石田。
すっかり意気消沈して、表情もうつろである。
そんな石田を見て、工藤が声をかける。
「石田先生、大丈夫ですか?」
石田、うつろな表情で工藤を見る。
「工藤さん、まさか満額融資が断られるなんて思いませんでした。これからどうすれば良いのか・・・」
うつむく石田。
同じように思い悩む工藤であったが、ふと顔を上げ、
「石田先生、森川先生に相談してみてはいかがでしょう?」
石田に話しかける。
「森川先生?」
ふと顔をあげる石田。
「森川先生は、歯科の開業を多くこなされています。こういう場合もいろいろとアドバイスしていただけると思います。」
石田の表情に光が戻ってきた。
「そ、そうですね、そうかも知れません。」
工藤、携帯電話を取り出しながら
「早速、森川先生に連絡を取ってみます。」
そう言いながら番号をプッシュする。
そんな工藤を、すがりつくような目で見ている石田。
「あ、森川先生。M社の工藤です。いつもお世話になっております。お忙しいところ、申し訳ありません。実は・・・」
駅前のビルが立ち並ぶ中の一角。
「森川会計事務所」の看板が見える。
その応接室のソファに、石田と工藤の2人が座っている。
そこに、税理士の森川先生が入ってくる。
石田と工藤、立ち上がる。
「お世話になっております。」
「ご無沙汰しています。石田先生。」
お互いに挨拶を交わし、
「どうぞお座り下さい。」
森川先生が石田と工藤を促す。
ソファに座りなおした石田と工藤。
早速、石田が口を開く。
「先生、実は銀行から満額融資を受けられなくなってしまいまして。」
森川先生、ゆっくりと頷きながら
「そうですか。今回は先生のお父様の紹介があるので融資頂けるかと期待しましたが、銀行さんの場合、新規開業で満額融資を成立させるのは非常に難しいです。」
森川先生を真剣に見つめる石田と工藤。
2人の顔を交互に見ながら、森川先生が言葉を続ける。
「そこで・・・日本政策金融公庫にご相談されてはいかがでしょうか?」
意外な言葉に驚く石田。
「え?、日本政策金融公庫・・・ですか?銀行と何が違うのですか?」
森川先生、落ち着いた表情で説明を始める。
「日本政策金融公庫の場合、1,000万円まで無担保、無保証で借りられます。銀行と日本政策金融公庫を併用で考える事をお勧めします。」
表情が輝く石田。
「そうなんですか?」
森川先生、ゆっくりと頷きながら
「はい。1度融資を断られたからと言って落ち込む必要はありません。一緒にがんばりましょう。」
すっかり元気な顔を取り戻した石田。
「はい。」
不安が取り除かれて嬉しそうに、大きな声で返事をする。
ビルの1階から石田と工藤が出てくる。
「工藤さん。森川先生に会えて良かったです。何か救われた感じがします。」
ほっとした顔で工藤に話しかける石田。
「そうですね、やっぱり森川先生は頼りになります。」
「そうですよね!」
大きく頷く石田。
そこに一人の女性が通りかかる。石田と工藤と入れ違いに、ビルに入ろうとした女性は、工藤を見てふと立ち止まる。
「あら、工藤さん、こんにちは。」
声をかけられた女性を見る工藤。
「あ、新開先生。いつもお世話になっております。」
笑顔で挨拶をする。
「この間はごめんなさいね、急に呼び出したりして・・・」
「いえいえ、とんでもありません。」
笑顔で話をする工藤と新開。
新開、ふと石田のほうを見て
「あれ?、失礼ですが・・・ひょっとして叶さなえさんの・・・。」
女性の声に気がついた石田は少し考えて
「あ、あの、はい。ご無沙汰しております、石田です。」
思い出したように頭を下げる石田。
新開、人懐こい笑顔になって
「やっぱりそうですね。新開聖子です。」
同じように軽く会釈する。
「あれ?、新開先生と石田先生はお知り合いだったのですか?」
工藤が不思議そうな表情で尋ねる。
「え?工藤さんも新開先生をご存知なんですか?」
石田も意外そうに聞く。
3人共、呆気にとられてお互いの顔を見合わす。