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歯科医院の開業・経営に役立つ統計情報をまとめています

採用難を乗り切るための開業戦略NEW

2025/12

勤務医の平均年収は令和6年に約1,060万円と過去15年で最高水準に達し、採用難が歯科業界の大きな課題となっています。
こうした環境下で開業を成功させるには、人材確保の難しさを前提にした戦略が不可欠です。

本記事では、データをもとに「採用難時代に求められる開業戦略」を整理し、人件費高騰への対応、DXによる省人化、自費率向上による収益安定化の3つのポイントを解説します。

ポイント

◆歯科医師(勤務医)の平均年収は右肩上がり、令和6年には約1,060万円へ

・平成22年比では約1.8倍(平成26年比で約1.4倍)に上昇し、過去15年で最高水準
・特に令和3年以降に急伸、コロナ禍からの回復が鮮明
・デジタル化や自費診療の拡大が成長を後押し

歯科業界の構造的転換が歯科医師の賃金に影響

歯科医師の年収は、平成22年の約580万円から令和6年には約1,060万円へと、15年でおよそ1.8倍に上昇しました。
特に、令和3年以降の伸びは顕著であり、コロナ禍による一時的な落ち込みから一気に回復し、その後も高水準を維持しています。

歯科医師(勤務医)の年収グラフ

このV字回復を含む年収の上昇は、単なる景気変動によるものではなく、DX化や自費診療比率の上昇などによって生産性が向上したことを背景に、歯科医院業界全体が構造的な転換期にあることを示していると考えられます。

自費診療比率グラフ

自費診療比率が上昇している主な背景

1. 審美歯科の需要増加
セラミック・ホワイトニング・インプラントなど、見た目の美しさを重視した治療が増加し、保険診療では対応できない審美的なニーズに応える動きが拡大しています。

2. 患者さんの価値観の変化
「審美性」「快適性」「長期耐用性」を重視する傾向が高まり、自費診療を選択する患者さんが増えています。

3. 保険診療の制約
保険診療では点数制度の上限があるため、材料や治療範囲が制限されます。
一方で、自費診療では高品質な素材・技術を提供できるため、患者さんにとって治療の選択肢が広がり、結果として選ばれやすくなっています。

4. 歯科医院の経営戦略
審美・インプラントなどの自費診療は利益率が高く、医院の経営安定につながるため、積極的に導入する医院が増加しています。

5. 患者さんに届く情報量の増加
歯科医院がWebサイトやSNSを通じて発信する自費診療のメリットが、来院前から患者さんに届く機会が増え、自ら自費診療を選択する時代へと変化しています。

開業時の3つの注意点

1. 勤務医の人件費・採用コスト高騰への対応
事業拡張にあたり、勤務医の採用は避けて通れません。
厚生労働省「一般職業紹介状況(2025年4月時点、常用・除パート」によると、「医師・歯科医師・獣医師・薬剤師」区分の有効求人倍率は約3.00倍です。
これは全職種平均の1.18倍と比べて約2.5倍にあたり、歯科医院でも人材確保の難しさが常態化していることがわかります。
こうした採用難の影響で、人件費と同時に、採用コストも高騰している状況です。
そのため、事業計画では勤務医の人件費を慎重に見積もり、定着率と稼働効率を両立できる体制を整えることが重要です。

2. セルフ化や自動化の推進
DX導入は、“コスト”ではなく、時間と人材を有効に活かすための“投資”です。
近年の経営リスクとして「人件費上昇」と「採用難」が顕在化しているなか、開業初期からの採用計画と、DXによる省人化を意識した設計が欠かせません。
DXを活用して集客や接客を仕組み化し、勤務医が治療に専念できる環境を整えることが大切です。

3. 自費率・リピート率の向上
高人件費化にも耐えられる安定した収益構造を築くには、自費率・リピート率を高める必要があります。
自費診療比率を高めるためには、患者さんとのコミュニケーション強化などを通じて、満足度を高めることがポイントです。
満足度が向上すれば、患者さんのリピート率も高まり、結果として経営の安定にもつながっていきます。

森川先生から一言

求人難の問題は、勤務医だけでなく、歯科衛生士や歯科助手など、医療機関におけるあらゆる職種で人材が不足しています。
若年層の人口減少が顕著な人口動態を踏まえると、この人手不足が解消される見込みはほとんどありません。

この状況を少しでも改善するためには、高齢者の雇用を増やすなど、これまで採用対象としなかった層の活用を検討する必要があります。
また、週休3日制の導入や有給休暇の計画的な消化など、労働環境の改善に向けた取り組みも求められます。


モリタが進めるDX

用語・単位について

  • 年収……月額給与・賞与・残業代の合計。本ページでの単位は、万円。
  • 調査時期……調査年の6月分賃金等と調査前年1年間の賞与などについて7月に調査した。

一次情報

賃金構造基本統計調査

医療経済実態調査

賃金構造基本統計調査とは:
主要産業に雇用される労働者について、その賃金の実態を労働者の雇用形態、就業形態、職種、性、年齢、学歴、勤続年数及び経験年数別に明らかにすることを目的として、毎年6月(一部は前年1年間)の状況を調査している調査です。

医療経済実態調査とは:
医療経済実態調査は、中央社会保険医療協議会が2年に1度、実施している調査です。医業経営等の実態を明らかにし、社会保険診療報酬に関する基礎資料を整備することを目的に実施されています。
2年に一度の調査で医療施設の2期連続の情報を調査します。同じ医療施設の数値を比較する事ができるため調査回ごとの伸び率などの比較データが一般の統計より経営実態に近いものになります。

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