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歯科開業NET小説 チャプター06 「融資の交渉」

チャプター06 「融資の交渉」

さなえからの電話を切った新開は、携帯電話を持ったまますぐ近くにあるインターフォンの応答ボタンを押す。

「はい、お待たせしました」

訪問者の相手に呼びかける。

「新開先生、ご無沙汰しております。M社の工藤です」

インターフォンのスピーカーから明るい声が響く。

「あ、工藤さん。今、開けます」

インターフォンを切って、玄関口へ向かう新開。

玄関のドアを開けると、笑顔の工藤が立っている。

「新開先生、こんにちは。お元気でしたか?」

軽く頭を下げる。

「こんにちは。ごめんなさいね、急に呼び出したりして」

「いえいえ、とんでもありません」

にこやかに答える工藤。

「実は・・・ちょっと相談したいことがあって・・・あ、ごめんなさい、とりあえず中へ入って」

工藤を招き入れる新開。

「失礼します」

工藤、中へ入り、玄関のドアが閉じられる。


閑静な町並みにある一軒のファミリーレストラン。

前面ガラス張りの一席に石田が座っている。

そこへ小走りで現れる工藤。

「あ、工藤さん」

「すみません、石田先生。お待たせいたしました」

工藤、石田の向かいに急いで座る。

「資料を作成するのに手間取りまして・・・申し訳ありません」

頭を下げる工藤。

「いえいえ、無理を言っているのはこちらですから」

笑顔で答える石田。

「無事、物件の契約も終わりましたので、これから金融機関へ融資をしてもらう為の交渉が始まります。必要な事業計画書は、税理士の森川先生に書いていただきました。」

工藤、鞄から書類を取り出して石田に手渡す。

石田、事業計画書のページを捲りながら目を通していく。

「う~ん、助かります。5年後の資金運用も試算できるのですね。正直言って、私はお金のことは苦手なので、工藤さんや森川先生がいなかったら大変でしたよ。人には聞きにくい話ですしね。」
「確かにそうですよね。それで先生、融資はどこかご指定の金融機関はありますか?」
「ええ。父の会社と取引のある銀行にお願いしたいのですが。」
「お父様ですか。ではそちらの銀行とアポイントをとっていただけますか?」

「帝塚山歯科」の休憩室。
石田と古里が立ち話をしている。
「物件も決まって銀行の融資がまとまれば、私も開業医だ。」
「石田先生、院長先生に聞かれたら大変ですよ。」
「大丈夫、院長は出かけたよ。それに院長先生には随分前から、開業に関する相談はしているんだよ。私だって、院長先生に相談無しで、いきなり開業します!なんてことは言いたくないしね。」

「そうなんですか。」

ほっとする古里。

「ところで、古里は開業なんか考えないの?」

「いやぁ、まだ具体的には考えてないですね。毎日があっという間に過ぎていく感じで・・・そこまで余裕はないです。」

「まぁ、私もすぐに開業するから、もし何かあったらいつでも相談してよ。」

軽く笑い飛ばす石田。

そんな石田を見て、少し不安そうに口を開く古里。
「先生、浮かれすぎていませんか。夢もいいですが現実を見失ったら大変ですよ。銀行の融資は本当に大丈夫なんですか?」

再び、笑い飛ばす石田。
「大丈夫だよ、心配ないって。順調、順調!」

古里の言葉には殆ど耳を貸さない石田であった。


さなえの自宅 。
リビングで携帯メールを手にするさなえさなえ。
「お金のこと、聞いたら成泰、怒るかな。付き合ってるんだから聞いてもいいかな・・・。」
メールを打ちかけて手が止まるさなえさなえ
「やめとこ。信じないと・・。でも、はぁ(ため息)。」

携帯を閉じて、机の上に投げ出すさなえ。
その携帯の横には、先日結婚した友人からのハガキが何気においてある。

「私たち結婚しました。今度はさなえの番かな?」のメッセージが書かれている。

幸せそうな友人の写真を見ながら、再び大きなため息をつくさなえ。


東京北銀行の応接室。

石田の父親の会社と取引がある銀行に、石田は工藤と一緒に来ていた。
その銀行の応接室で、担当者と話をしている石田と工藤。
「というのが、石田先生の事業計画です。ね、先生。」
「はい。」

手にした事業計画書を見ながら、担当者が口を開く。
「石田先生、申し訳ありませんが全額融資は難しいです。」
「え?」

驚く石田、そして工藤。
「昨年までならこれで内諾できたのですが今のご時勢では、満額の融資は・・・。」
まさかの交渉決裂に動揺を隠しきれない石田と工藤。満額融資をもらえないと開業は夢へと消えていきます。開業への道は再び足踏みです。


次回へ続く~

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